失踪した《ある作家》について

本日は遠方からお越しいただきまして、誠にありがとうございます。私、当館の執事をしております、メンシキと申します。免税店の免に色合いの色と書きます。

当館には、2023年に表舞台から姿を消したある肖像作家の作品を展示しており、お客様はそれらを自由に鑑賞していただけます。いくつかの随筆もご覧になれますが、ここを訪れるお客様のほとんどは作家の《肖像作品を楽しみにお越しになります。

すでにご存知やもしれませんが、彼の象徴的な創作である肖像作品は、画家が肖像画を描くように、あるいは彫刻家が造形するように、特定のモデルを観察と対話によって文字に起こした作品でございます。「肖像画的な文学」と言っても差し支えないかもしれません。

肖像というくらいですから、インターネットの百科事典のように、個人の客観的な情報が書かれているわけではありません。作家の自由な鑑識眼で捉えた、客体の性格、印象、特徴、空気などが、ときに創作の物語を交えて描かれています。

描かれている人物は、すべて実在する者ですので、モデルを知る読者にとっては、その者の魅力を再発見できる作品。知らない読者にとっては、物語や表現を愉しむことができる短編集。そして描かれた本人にとっては、使命を見つけるための道標という願いが込められています。

作家からは毎週原稿が送られてきますので、来館していただくたびに新しい作品と出逢えます。私はいつでもこちらの部屋に控えてございますので、お手伝いできることがございましたら、お気軽にお知らせくださいませ。貴方にとって素晴らしい一文と出逢えることを願っております。

執事の免色(めんしき)